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根ワークショップ(金谷) 発表要旨 1999.11.19 

この要旨の出典:
阿部淳・森田茂紀 1999. 陸稲の耐乾性と根系構造−個根の形態的特性に着目した解析の試み. 根の研究 8(4):*.


陸稲の耐乾性と根系構造 − 個根の形態的特性に着目した解析の試み

阿部 淳・森田茂紀(東京大学大学院農学生命科学研究科)

 陸稲の乾燥抵抗性を高める方策として、これまでに実際上もっとも効果を上げてきたのは、早生化により、特に乾燥に弱い出穂開花期をまだ土壌水分の残っている時期に早める回避戦略である。これに次いで、根系の発達により土壌中の少ない水分を効率よく獲得し乾燥ストレスの影響を小さく抑える戦略が期待される。実際、1994年の干魃年の圃場試験では、土壌深層の根量の多い品種ほど稔実率が高く干魃害を避けやすかったこと、茨城農試の育成した耐乾性品種は深根性であったことが報告されている(平山ら,1995)。ここでは、品種間の深根性の差異を形態的な視点から考察する。
 陸稲の品種には深根性の程度に大きな変異がある(Nemoto et al.,1998)が、それらに関わる個々の根の形態的形質としては、(1)根の伸長速度、(2)根の伸長期間、(3)根の伸長角度の3つが考えられる。すなわち、伸長速度が大きく、鉛直下方向に近い角度で長期間伸長を持続できる品種の方ほど、土壌深層に発達する根の割合が高まると期待される。この際、根は茎内で原基が形成され始原してくることから、水稲の場合(森田ら,1997)と同様に茎形質との関連も予想される。
 演者らは、陸稲8品種と水稲1品種を東京大学農学部附属農場の実験圃場で慣行法により畑栽培し、収穫期に塹壕法で根の垂直分布を調査した。また、長さ1m×直径5cmの塩ビ管に、土壌を充填して、深根性程度の異なる陸稲4品種・水稲1品種を栽培し、生育初期の根の長さの推移を調査した。さらに1/2000aワグナーポットに半球形の金網を埋め込み土壌を充填したものに先と同じ陸・水稲5品種を栽培し、播種より2ヶ月後までに各節根が金網を通過した位置を調べ、水平方向を0°鉛直下方を90°とした場合の各品種の根の平均伸長角度を算出した。
 畑圃場と、塩ビ管・ポットの試験結果の対比から、深根性には、根の角度と長さの双方が関与しており、さらに長さには、根の伸長速度と伸長持続期間の長さが関わることが分かった。品種により、これらの要因のどれに依存するかは異なっており、例えば、浅根性の品種では陸稲農林22号が根の伸長速度・平均伸長角度とも小さいのに対して、ウルマモチでは伸長角度や初期の生育速度は大きいものの旺盛に伸長する期間が短く最終長が小さいことが浅根性の原因と考えられた。さらに、今回調査した日本の品種や熱帯ジャポニカの品種においては、茎の太さや出葉間隔という茎葉部の形質が、根の伸長角度、伸長持続期間に関わることが示唆された(阿部ら, 1998)。
 なお、深根性の陸稲品種と浅根性の水稲品種とでは根の細胞のサイズや細胞壁の肥厚の様相にも明確な差異が認められており(Kondo et al., 1998;森田ら, 1998)、こうした細胞・組織レベルでの品種特性と深根性・耐乾性との関係の解明が期待される。
 国際稲研究所(IRRI)における近藤始彦氏との共同研究(Shuttle Research)では、インディカ品種もまじえて水耕栽培実験(Kondo et al., 1999)と圃場試験を行ってきた。水耕栽培における茎葉部と根系の形態的諸形質を主成分分析により解析した結果では、土壌の中間層から深層に分布する根に相当すると思われる長さ30cmを超えた部分の総根長は、主に個体全体の発育の旺盛さに連動しており、節根の最長根長や平均長は、品種の穂重型的性格の強さに連動していた(近藤ら,1999)。

[引用文献]阿部ら1998.根の研究7:134.;平山ら1995.育雑45(別1):218.;Kondo et al. 1998. Jpn.J. Crop Sci.67(Extra issue1):80-81.;Kondo et al. 1999. Jpn. J.Crop Sci. 68(Extra issue1):184-185.;近藤ら,1999.根の研究8(印刷中);森田ら1997.日作紀66:195-201.;森田ら1998. 根の研究7:78.;Nemoto et al.1998.Breed.Sci.48:321-324.


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